薄毛は美容室に行くべきではない。
巷でそんな噂を耳にする。
サロンスタッフと薄毛患者の埋まらない溝
どこを切ったら良いの?ヘアサロンスタッフの疑問はそこからスタートし、洗う部分少なっ!と感想を持たれたハゲ頭に塗布されるのは一般的な毛量のお客の半量のシャンプー、ドライヤーで乾かす際に優雅にユラユラと舞う様はまるで海藻、セットの段階で最後に福山っぽくしてくださいと無理難題を押し付けられる。
かどうかは僕はヘアサロンスタッフではないので全くもって妄想だが、薄毛に使う美容室代ほど無駄な出費はないのではと考えていた。豚に真珠、薄毛にヘアサロン。
自然と美容室からは遠ざかり、気付くと右手には買ったばかりのバリカン。愛刀片手に2週に一度自分を清める儀式が繰り返された。
自分なりに薄毛対策を練り、使用するシャンプーは「フケ」「かゆみ」「抜け毛」「毛根」「加齢臭」などシャバからかけ離れたキラーワードが散りばめられた青または黒を基調としたシャンプー群。頭皮が固いからと何かで読めば力強く頭皮を揉んださ。
しかし一向に生えてくる気配はない。圧倒的な密度不足。明治ミルクチョコレートと霧の浮舟ほどの埋めることのできないエアリー差。自然にエアリー。自分の技術全てを出し切ってなお薄毛は改善されないので、やはりプロか?プロなのかと初心に帰り勇気を出して北見の美容室へ向かうことにした。
ついでに二日後に友人の結婚式が東京であるのでせっかくだからハゲてるけど美容師さんに無理言ってお洒落さんに変身させてもらおうではないか。
北見の美容室を予約
ダメダメ、うちでは取り扱えないよ。
他所に行ってもらえるかしら?
やはり薄毛の美容室はハードル高い、心が折れそうになりながらすがり付く思いで予約電話をしているとようやく一件のサロンが受け入れてくれることになった。
アールモンドヘア新世界。
北見で3本の指に入ると言われるスタイリストを指名
今回そんな僕をキレイにしてくれるスタイリストはアールモンドヘア新世界の電信柱こと長野さん。
なんとなく細長い体型だからという小学校だったらイジメにつながりそうな理由で電信柱という重要ポストを任されており、小中学校時代の僕の同級生でもある。小学校時代はサッカーがうまいとチヤホヤされていた。
カット前の僕の髪型、ヘアスタイルというべきか。
「髪ないくせに髪型とか言ってんじゃねーよ!」などと罵ってはいけない、言葉のナイフがグサリと突き刺さる。
シャンプーで頭をキレイに
(ハゲ+美容室)という相容れない組み合わせで緊張している僕をスタイリストはある場所に強引に連行し、仰向けにさせられたあげく目隠しをされた。
殺される。場違いな場所に勘違いして侵入した僕を待ち受けていたのは粛清。武士は武士、農民は農民であり家柄の飛び級などありえない。薄毛は薄毛らしく身の丈にあった生活をしていれば良い。
外の景色はどんなだろう、海の向こうには何があるのだろう。
興味を持ってはいけない、目の前の仕事を淡々とこなし、死なないように生きながらその小さな生活の中で小さな幸せを見つければいいじゃないか。
お父様、お母様、今までありがとう、こんな息子をどうかお許しください。さようなら。
いよいよカットへ
さすがは北見で5本の指に入るほどの喜劇王、長野さんワールドに嵌った僕はあやうくシャンプーの段階で遺言を書くところだった。まだ死んではいけない。
白くてふわっとした何かを着させてもらうとなんかキリストの気持ちになれた。
時は満ちた。お手並み拝見といこうじゃないか貴様の自慢の腕とその愛刀村雨でな。
今回の僕の要望は以下の2点。
- O型にハゲる傾向があり、ちょっと髪が伸びると生え際だけ毛が生え頭頂部にお皿が乗っかってるみたいになるのでプレートオンマイヘッドを解消してほしい
- 髪とひげの境目が目立たなくなるようにしてほしい
薄毛に使用するサロン専用ハサミ
これハサミ使う必要今回なくね?
電信柱からそう聞こえた。どうやら僕という今までにない素材に怖気づいているようだ。震える体を必死にコントロールしハサミを入れる。
あ~、違う違うそっち髪じゃなくてヒゲだって!冗談やめてよね~!!
そう戯れること10分、一向にカットが進まないので暇づぶしに鏡の近くにある手書き風ポップに目をやるとトリートメントがとても良いそうなので、ポップを細かく読み進めると「女子力アップメニュー」だった上に、長野さんに「お前には必要ない」と一刀両断されたので諦めた。
巧みなバリカン術
バリカンにも似た機械ばっかり使ってるなあと思いスタイリストに聞いてみたところ「ハサミを使う箇所が皆無」とのこと。
しかし、バリカン捌きひとつとっても僕の要望その1である「頭にお皿が乗っかってるみたいな恥ずかしい感じ」を解消する為に巧みにバリカンのミリ数を変え、頭頂部に髪が生えたような仕上がりになっていく。プロの業がここにあり。中田英寿を彷彿とさせる。
髪とひげのグラデーションを作る部分でようやくハサミが登場。美容室に来て「ハサミ使ってもらえてうれP〜〜!!!」といった気持ちになれるのはハゲの特権であり、この気持ちに辿り着けただけでも美容室にきた甲斐がある。
和製リーチマイケル。
マッサージで悪霊を退散
あれこれ手を尽くしてくれたのち再度処刑台シャンプー台へ。
頭に吸い付くような手さばきでシャンプーしてくれたのは女性執行人スタイリスト。なんだかスースーする液体を頭皮にぬったくったあとはマッサージ。両肩に乗ってた悪霊がいなくなった。
そして席に戻り仕上げのマッサージ。
気持ちよすぎて半目になった。
これでようやくお洒落さんになれた!なんだか薄毛も解消された気がする!うれしー!
もう十分満足した僕だが、更に高みを目指す長野さん。
仕上げは整髪料を使ってセット
長野「ムースつけとく?」
僕「どこに?」
なんという不毛な質問だろうか薄毛だけに。一瞬戸惑ったがせっかくの美容室、毛先を遊ばせるのも良い経験、人生の糧となる。なのでお願いすることにした。
えい!
ブラジャー被った下着泥棒が生まれた。
せっかくシャンプーしたのに無意味な整髪料で髪はまたベタベタである。これが同級生の仕打ちなのだろうか、僕は彼に何か悪いことをしたのだろうか。
という事で小洒落たリーチマイケルジェントルマンに変身する事ができた。
長野さん、そしてアールモンドヘアの皆様ありがとうございました!
この格好のまま結婚式に行こうと思います。おわり
ハゲ関連記事: