身の丈をわきまえないで恥をかいた。お洒落の飛び級は危険です。

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ベルトのバックルは前側でなければならない。

 

何を当たり前のことを言ってんだと言われそうだが、注意しないとベルトのバックルは背中側に行ってしまう事があるのだ。

 

どの時代を切り取ったとしても、人は大抵、イケイケで格好よくて目立つ奴(A)と、普通で普通の格好で普通の奴(B)と、臭くて服に穴が開いていて暗い奴(C)に分類されるのが世の常だ。僕の周囲でいうとその割合はA:B:C=3:4:3となる。

僕の場合はどこに属すかというと、今も昔も基本はBであり、AとBの中間にいる事もあれば、CとBの中間にいる事もある。よく言えば行動範囲が広く、悪く言えばどっちつかずな部分がある。

 

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僕がまだ中学校2年生だった頃、イケイケで格好よくて目立つ奴(A)の中の一人が整髪料で髪をセットして登校してきた。しかも選んだ整髪料はジェルだ。

説明するまでもないが、製品によっては髪はガッチガチに固まり、しかも髪表面はツルッツルのテカテカになる、それがジェル。

僕は普通で普通の格好で普通(B)の中学生ながら、ジェルできめて登校してきたそいつを見て「なんてとがった奴なんだ、ジェルをつけて登校してくるなんて。僕はジェルができるだろうか、いや、できない」などと覚えたての反語表現を脳にちらつかせ、プルプル震えながらも、実際はジェルに、そしてジェルを使う勇気を持ったAグループに憧れを抱いた。

 

後日、ジェル男とは別のイケイケで格好よくて目立つ奴(A)の髪が、柴犬よりちょっと濃い色くらいまで明るくなっていた。

中学生にして急に柴犬ほどに髪の色が明るくなるのは尋常ではない、というか中学生でなくとも、人の髪というのは年とともに白くなったり、はたまた抜けていったりすることはあれど、一昼夜で柴犬色になることはまずあり得ないのだ。中学生の僕でもそれくらいは知っている。

「こいつ、染めやがった。なんてとがった奴なんだ、髪を染めて(又は色を抜いて)登校してくるなんて。親はそれを許しただろうか、いや、許してない」などと考えながら、実際は髪の色を明るくしたAに憧れを抱いた。

 

こういったイケイケグループの奴らが何かしらの方法で脚光を浴びているのに焦燥を感じた僕はBグループからの脱却、そしてイケイケAグループへの新規参入を心に誓った。

 

当時、中学校から一番遠い地区に自宅があった僕は、友人の家に寄りながら登校していた。まず、僕の家から一番近い友人、ヤエチャンの家に寄り、僕とヤエチャンで、次に近い友人の家へ、今度は3人になってまた次の友人の家へ…を繰り返し、最終的には6~7人編成で中学校へ登校するのが当時の僕らのセオリーだった。

 

ヤエチャンの家につくと、ピンポンを押した後、玄関にお邪魔して玄関に座りながらヤエチャンの登校準備が終わるのを待つ。

ヤエチャンはAグループだ。背が高く、スポーツ万能で格好良い。誰もが認めるイケイケのAグループ所属だった。

朝、僕が家に迎えに行ってもヤエチャンの出発準備が整っていることはほぼなく、僕が到着してから「ちょっと待って、これでも読んでて待っててね」と言ってトイレでうんこをしだすのがヤエチャンの日課だ。そしてヤエチャンのお母さんが「ごめんねー、ちょっと待っててねー」というのが僕の日常だ。

玄関で待つ僕にヤエチャンから暇つぶしにと差し出された本はバスケットボールの雑誌だったりした。NBAだとか、デニスロッドマンだとか、ピアスだとか、タトゥーだとかそんなのが散りばめられた、いかにもAグループが読んでそうな雑誌で、遠い世界過ぎて僕は雑誌にクラクラした。

 

ある日、僕はいつものようにヤエチャンの家に迎えに行ったらヤエチャンが僕のことを見て「あれ、元気髪明るくなった?」と言ってきた。

 

Bグループからの脱却、そしてイケイケAグループへの新規参入を心に誓ったあの日から欠かさず僕がやってきたことがある。ドライヤーで髪を乾かしまくるのだ。

 

もうなんというか、乾かすというより直接ドライヤーの送風口を髪につけて、髪を徐々に焼いていく感覚。こうすることによって黒い髪は徐々に茶色に変化していくのではという仮説のもと、僕は毎日髪を乾かした。

髪の毛をジェルでセットする事や、髪を染める行為は「やってやる」という気概がないとできないし、どうしても能動的な決断になる。「僕は今日、自分の意思でこうしました」と堂々と言える選ばれしAグループの奴だけができる行為なのだ。なので、普通で普通の格好で普通である僕にはできない。

 

しかし、日々ドライヤーで髪を焼き、徐々に明るくしていく場合はどうだろうか。

髪を乾かすという日常的な行為、その中で髪が明るくなってしまったという、自分は意図していないけど結果明るくなっちゃったという逃げ道ができる、そんな算段だ。

日常でのドライヤー行為の結果、髪が明るくなっちゃったね、だけど髪が明るくなった事によって自動的にAグループに昇格だね、そんな事を考えていた。

 

「あれ、元気髪明るくなった?」

 

僕は心の中でガッツポーズを決めた。かの有名なガッツ石松が最初にやったあのポーズだ。日々の努力が実り、ついにAグループでバスケの雑誌を読むヤエチャンの口からその言葉を引き出すことに成功した。

 

Bの学力しか併せ持たなかった僕だが、ふと、進学校に進むと心に決めた。そして両親に「塾に行かせてくれ」とお願いした。

 

地方にある塾ではなく中心街にある、他校からも学生が来るような大きめな塾だ。

学力に応じてクラスを分けられ、僕が中の上くらいのクラスになった。30名ほどの生徒がいて、同じ中学校の友人は3~4名しかいなかった。残り20数名は他校の生徒だ。

制服で来ている者もいれば私服で来ている学生もいる。僕らの中学校は田舎に分類される地域だ。2年生は全体で70名程度、3クラスほどの中学校だったが、人口密度の高い地域の中学校は7クラス前後はあっただろうか、僕らの中学校とは規模が違った。

 

規模は違えど、イケイケで格好よくて目立つ奴(A)と、普通で普通の格好で普通の奴(B)と、臭くて服に穴が開いていて暗い奴(C)の割合はそうは変わらない。

 

変わらないのだがAの分母が多くなると、Aグループの中でも飛び抜けてイケてる奴とかが出てきたりするものだ。

塾での僕のクラスには他校のAグループ、それも飛びきりイケイケで飛びきり格好よく、そしてめちゃめちゃ目立つ奴がいた。なんというか、本当におしゃれ、私服がおしゃれ、それ、どこで買ったの?と一品一品聞きたくなるくらいおしゃれなのだ。

 

僕は以前、母親と一緒に僕の服を選びに行ったとき「あんたの好きな服選んで良いよ」と言われたので、全盛期のX JAPANが着てそうなダラリと長い派手めのシャツを選んだら「そういうのはあんた似合わないからやめて」と止められたほどの実力を持つ。身の丈がわからない。

 

僕は塾の授業中や休み時間など、Aグループ中のAグループであるその男を観察した。そう、僕だってヤエチャンに「あれ、元気髪明るくなった?」と言わせたほどの男だ。今現在は田舎の中学でBグループに属してはいるが、届かない距離ではない。

 

狙ってやるよ、お前のポジションをな。

 

僕は更なる高みを目指すと心に決めた。

 

授業中に後ろから注意深く奴(A中のA)を観察しているとある事実に気づいた。奴がしているお洒落なベルトはベルトの体をなしていない程緩く、ダラリとお尻のあたりまで下がっており、更にバックルが何故か背中のほうに来ているのだ。

 

「な、なぜベルトのカチャカチャする部分が背中にあるのだ…?」

 

ベルトのバックルは前にあるはずだ。そう、へその下。そこで自分のウエストに合わせてベルトを締めるのが通説だ。後ろにあったらベルトの長さを調整しづらいではないか。

そこで僕はハッと気づいた。これがお洒落なのかと。

ベルトはベルトの体を成していなくてもいいのだ。ダラリとさせておけば良い。そして、どうせ長さなど調整する必要はないからバックルは後ろにあっても良い、この理論こそがお洒落なのだ。

 

この理論に気づいているのは奴(A中のA)と僕しかいないだろう。

Bからの脱却、そしてAへ

 

翌日、僕は制服のベルトをズボンから一旦抜き取り、バックルが丁度後ろにくるように挿し直した。ベルトを通す穴も背中の方は通していない、そうする事によってバックル自体がダラリとぶら下がるようにしたのだ。ちなみにベルトは普通の奴だ、今はそれしか持っていない。

 

満を持して登校、いつものようにヤエチャンの家に行くも、上の制服でベルトが隠れていたのでヤエチャンには気づいてもらえなかった。

学校に到着しいつもの様に授業を受けた。座っている時に後ろのバックルは見える事は塾でわかっていたので、ちょっと前のめりになってなるべくバックルに気づいてもらえるよう努めた。

 

授業を終え、休み時間に、僕の後ろに座っていた女子が「小野くん、ベルト反対になってるよ」と笑いをこらえながら言ってきた。

あれ、おかしいな~、とか言ったかもしれない。正直その時は恥ずかしくなってしまって気が動転した。

お洒落理論に基づき、奴(A中のA)の真似をしてベルトを反対に装備した結果反対だと言われたのだ。そりゃそうだ、実際反対についてるんだもの。

 

指摘した女子は間違ってはいない。間違っていたのはベルトのみにスポットを当ててBからAへ飛び級しようとした僕なのだ。

 

理由

イケイケで格好よくて目立つ奴には、そうなる為の理由がある。自分でこうするんだと思える決断力があり、つまり、外見だけでなく内面もイケているのだ。自分の意思があるからジェルで整髪できるし、自分の意思があるから黒かった髪を次の日から明るくできる。

帽子も、シャツも、ズボンも、カバンもお洒落だからベルトが反対だってお洒落に見えるのだ。

ドライヤーで地道に髪を弱らせてるような奴がベルトを反対にしてはいけない。

飛び級したい気持ちもわかるが、物事には順序がある。

Bグループの皆様、どうかベルトのバックルをいきなり後ろに回さないようご注意ください。

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