予見の能力の違いを見せつけられた瞬間。才能の花は小学生で開花していた。

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先を読める奴は頭がいい。

一歩でも二歩でも、次がどうなるのかを予見する能力は訓練することである程度鍛えられはするが、持って生まれた才能がベースにあるのかないのかは大きい。

物事を上手く進めたり、お金を儲けたり、人を笑わせたりと、予見できればなんでもできる。

 

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自信を打ち砕かれたそろばん教室の暗算

まだ背中にランドセルを背負っていた頃、僕はそろばん教室に通っていた。

僕の家の近くには石材屋があった。石材屋の隣には町民が申請すれば自由に使える会館と呼ばれる平屋建ての建物があり、そろばん教室は夏休み中、その会館で週数回のペースで開催されていた。

20名ほどの小学生が会館に集まり、そろばんの先生の指導のもと各級ごとにそろばんの使い方を習う。

当時の僕の夏休みの過ごし方といえば、朝は会館前の広場で行われるラジオ体操に参加してシールをもらい、昼はひとつ年下でいとこのナオトや、同級生の友人とプールに行ったりファミコンをやったり、午後は週に数回ベースでそろばん教室へ行き、夜はテレビでアニメを見るの繰り返しだった。

そろばん教室で、僕は小学生なりに順調にスキルアップを重ねていった。だが、暗算が出始めた頃に状況は一変した。たしか7級とか6級とかの低レベルの段階だったと思う。

 

暗算がわからない。さっぱり計算できない。

 

暗算が出てくるまでの僕は順風満帆だった。自慢じゃないが、僕は小学校のテストだってほぼ満点だったし、漢字だって誰よりも先に覚えて書くことができた。図工の時間も上手に作品を作り上げ、水彩画だって上手な方だ。

小学校の先生が「むじんとう、と漢字で書ける人は前へ出てきて黒板に書いてください」という無理難題にさえ僕は勇敢に手を挙げた。

要は「む」が難しいのだ、縦に線を何本引くんだっけと、当時の同級生が悩むのを横目に、「む」のたて線は4本である事実を知っていた僕は颯爽と教壇にあがり白いチョークを握りしめた。

カッカッカッカッと教室内に鳴り響くチョーク音。

小野くん本当に「むじんとう」を漢字で書けるの?というクラスメートの期待の眼差しが背中に刺さるのを感じた。

 

僕が漢字で書いた「むじんとう」に先生が一言

 

「小野くん惜しかったねー」

 

な、なに?惜しかっただと?「む」のたて線は4本なはずだ、そして僕はちゃんと4本書いてあるじゃないか、この完璧な「むじんとう」を前に何の文句があるのですか先生。

「『とう』の部分の『しま』の漢字が『とり』になっちゃったねー」

 

無人鳥

 

黒板に残された確固たる証拠。

 

正解は無人島だ。「無」の下の点4つに引っ張られてしまったのだ。なんたる油断。そして教室中に広まる「むじんとりだってギャハハハー」の声の輪。それほどの男がそろばん教室の暗算で挫折を味わった。

 

できないと面白くなくなるものだ、暗算の挫折が僕のそろばん意欲を一瞬でそぎ落とした。

それからというもの、二階で遊んでいる僕に母がかける「そろばん教室の時間だから行きなさいよー」の言葉が怖くなった。

 

時間つぶしに訪れた仮設トイレ

その日はいとこのナオトが家に遊びに来ていた。二階にはミニ四駆のコースなどが敷設されており、僕らのメインスペースはもっぱら二階だ。

新しいギヤは新品のままだと噛み合わせが悪く、走りに支障が出る可能性があるから、ギヤ間にグリスをたっぷりと塗り、ミニ四駆を台の上に乗せてタイヤを空転させましょう。

タイヤと地面が接地しないよう工夫しながら空運転させることでギヤをほどよく磨耗させて安定させるのだ。

スイッチを入れたのちミニ四駆本体を台の上にのせ、振動で落ちないようにテープで固定させ空運転させることで新品だったギヤの滑りがよくなり、グリスもギヤ全体に行き渡る、これでようやく走りの下地の完成なのだ。これがミニ四駆の基本なのだ。

というような嘘か真かわからないような事を、下4桁が3249(みによんく)で終わる有料のミニ四駆ダイヤルにて前ちゃんが言っていたので、それをナオトと二人で実践している最中だった。

母からのそろばん辞令。

「そろばん教室の時間だから行きなさいよー」

今日もこの時間がやってきた。

 

正直言ってそろばん教室に行きたくない。僕に暗算は難し過ぎる。いっそ無人鳥になってここではない何処かへ飛んでいきたい。それほどそろばん教室に行きたくない。

だが、行きたくない!とぶちまけられるほど肝も据わっていないのだ。母の「そろばん教室の時間だから行きなさいよー」は提案ではなく命令でありmust、必ず実行しなければならない。

そんな僕を心配してくれたのか「一緒に行くよ」とナオトが言ってくれた。

 

お、おまえ…そろばん教室に通ってないじゃないか…

 

などとは考えなかった。会館までは徒歩3分、家を出ればすぐに到着してしまう距離だ。しかもナオトはそろばん教室には通ってないので、会館の入り口で別れることになるのは明白だ。きっとそのあと、二階のミニ四駆のスイッチが入りっぱな事も忘れて家に帰ってファミコンでもするのだろう。

でもそれでも心強かった。僕は鉛筆やらテキストやらそろばんが入ったかばんをひょいと肩にかけナオトと一緒に家を出た。

 

会館に続く一本道、両脇はどちらも田んぼで緑色の絨毯が一面に広がっている。太陽は出ているが風はあまり吹いていない昼下がりの田舎道をナオトと二人で歩いた。

 

十字路の角にある石材屋を過ぎたらもう会館は目の前だ、でもどうしてもそろばん教室に行きたくない、そんな表情を僕はしていたのであろう。ナオトがふと石材屋の敷地内に設置されている簡易トイレを指差した。お祭り会場などでよく見かける電話ボックス型のトイレだ。

 

「あそこで時間をつぶそう」

 

ナオトはそう提案してきた。

つまり作戦はこうだ。そろばん教室に行ったと思わせておいて、実はトイレで時間をつぶし、教室が終わるだろう時間めがけて家に帰れれば、そろばん教室に行かなくても良いのではないか、と。

説明するまでもない作戦だが、ナオトはキラキラした目でその作戦の実行を訴えた。確かに秘密基地や廃屋に潜入するような緊張感はある、なんにせよそろばん教室から逃げられる。トイレという場所にいささかながら抵抗はあったが、僕らは意を決して仮設トイレに侵入した。

 

予見の能力差が顕著に現れトイレでゲロになる僕

 

「せまいね」

 

当たり前だ。簡易トイレな上に二人で入っているのだ。しかも外よりちょっと暑い。こんな環境で果たして約一時間を乗り切ることができるだろうか。

 

「ゲンリン、なんかゲームしようよ」

 

僕はゲンリンと呼ばれ、ナオトはナンリンと呼ばれている。いつしかそう呼ぶようになっていたし、リンは知らないうちに名前の下についているものなのだ。

二人でじゃんけんをしたり、派生してあっちむいてホイをした。ゲームなんてないしおもちゃも持ってきていないから体ひとつで遊ぶしかない、もちろんトイレで。

しかし10分もすれば飽きてくる。

 

「トーナメント表を作ろう」

 

これは僕が言ったのかナンリンが言ったのかは覚えていないが、どちらかがトーナメント表の作成を考えついた。

トーナメント表の下段にゲンリンとナンリンの名前を書き込み、あっちむいてホイで戦わせて優勝を目指すのが目的のゲームだ、限られた資源と場所で考えうる最大限の遊びだろう。

僕はそろばんのテキストと鉛筆を取り出し、テキストの裏の白い部分にトーナメント表を書いた。

左から順にゲンリン、ナンリン、ゲンリン、ナンリン…と記入していき、いざ勝負。

予選の一段目、一回戦ではゲンリンが勝ち、二回戦ではナンリンが勝った。三回戦はナンリンが勝ち、四回戦もナンリンが勝った。準々決勝となり一回戦はゲンリンが勝ったが二回戦で事件が起こった。

 

準々決勝二回戦

ナンリンvsナンリン

 

こうなる事に我々は気づいていなかった。まさか同キャラ対戦になるなんて。さすがに一人二役であっちむいてホイはできないので、2P側のナンリン部分は僕が代打をつとめた。

準々決勝、準決勝、決勝と代打祭りで優勝を掴み取ったのはナンリンだった。

どんな些細でくだらないゲームでも勝てばうれしいもの、ナンリンはちょっと気をよくして「もう1回やろう」と言った。どうせ時間つぶしだし、トイレの中だし、暑いし薄暗いし、他にやることはないので僕も賛成した。

 

「同じ名前ばっかじゃつまらないから名前を変えよう」

 

そうナンリンが提案してきた。なんてアグレッシブな奴なんだ、小学生ながら提案の鬼である。そんな男がいとこで僕も誇らしい。

予選一回戦、つまり左側からまずは先ほどと同じようにゲンリン、ナンリンと書き込む。二回戦はどうしよう、ゲンとナンにしようなどといった具合に「ゲ」と「ナ」をベースに名前を考えていった。

 

「じゃあ俺ゲソね、したらナソか」

「次はゲーにしようかな、したらナンリンはナーだな」

「俺ナムにするね、したらゲムか、ゲームみたいだな」

順調に名前を決めていき、六回戦あたりの名前決めの時にナンリンが言った。

 

「ここはナボにしようかな」

ナンリンはちょっとニヤついていた。

なぜニヤついたのか一瞬わからなかったが、数秒後に気づいてしまった。ナンリンの奴、俺を嵌めようとしてやがる!

六回戦のナンリンの名前がナボになるという事は、今までの命名のやりかたからすると僕の名前はゲボになるではないか!

なんと屈辱的なことか。たかだか仮設トイレで行われている時間つぶしのあっちむいてホイのトーナメントではあるが、まさか自分の分身がゲボになろうとは。

ナンリンは続けた。

「次の名前はナリにしよーっと」

「最後のところはナロにするわー」クスクス

こうして六回戦はナボvsゲボ、七回戦はナリvs下痢、そして八回戦はナロvsゲロという見所満載のトーナメントが完成したのだった。

 

ナンリンはこうなる事を予見していた。なんて頭のいい奴だ。ひとつ年下ではあるが今回は完全に参ったし、自分の名前をちょっとだけ恨んだ。

 

なんだかんだで簡易トイレの中で散々笑って遊びつくしたら、結構な時間が経っていた。

 

「そろそろ帰ってもいい頃かもね」

 

僕らは恐る恐るトイレから出て、両脇の田んぼに目をやりながら、何か凄い冒険を成し遂げたような錯覚に陥りながら帰宅した。

そういえばミニ四駆のスイッチ入れっぱなしだったから確認しに行こう、ちょっと早くなってるかもしれないね!

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